2008年1月刊『地震は貧困に襲いかかる』いのうえせつこ

「神奈川新聞」2008年1月22日  評者 大槻和久

 「弱者」襲う地震被害 格差社会との関係まとめる
 発生から13年を経過した阪神大震災を題材に、震災と格差社会、貧困の関係を探った「地震は貧困に襲いかかる」(花伝社)が出版された。著者は横浜市栄区在住のフリーライター・いのうえせつこさん(68)。「災害のたびに繰り返される弱者被害を軽減する一助になれば」との思いを込めた。
 これまで虐待や買春などの社会問題を扱った著作を発表してきたいのうえさんは、総務省消防庁などが同震災の被害状況を確定するまで、発生から10年以上を要した点に着目。
 以前、神戸市に住んでいた経験を生かし、現地取材やさまざまな資料を読み進めるうちに、「震災の死者の背景に見える格差社会や都市の貧困とも言える社会問題にたどり着いた」という。
 軟弱な地盤と耐震性の低い木造住宅に住まざるを得なかった高齢者や生活保護受給者、障害者ら社会的弱者が数多く犠牲になった現実に照らし、「震災の被害は平等に訪れるわけではない」と指摘。金銭面だけでなく、住まいや人間関係にも及ぶ格差の実情に触れながら、貧富の差の拡大に警鐘を鳴らし、災害に強い住環境対策の必要性などを訴えている。25日から店頭に並ぶが、発行は同震災が発生した17日とした。
 いのうえさんは「社会的につくり出された格差や貧困が震災などの災害時に牙をむき、弱い立場の人を苦しめる。格差の実情を直視した災害対策が地震国日本には必要」と訴えている。

 

「神奈川新聞」2008年2月17日  評者 本岡典子(ルポルタージュ作家)

格差踏まえた対策主張
 阪神・淡路大震災から13年の歳月が流れた。6437人の死者を出した未曽有の惨劇。その生死はどこで分けられたのか。本書は2年の取材と徹底した資料の分析で震災の全貌に迫り、今につながる貧困と格差社会の実態を詳細に伝えている。
 地震は被災者に平等には訪れなかった。その生死の分岐点として格差の問題が浮かび上がる。貧困者、高齢者、障害者、外国人など社会的弱者と呼ばれる人々の犠牲が圧倒的に多く、生活保護対象者の死者発生率は非対象者の約5倍に上った。軟弱な地盤で、耐震性の低い古い木造住宅に住まざるを得なかった人々の多くが犠牲になった。「住宅」と住宅が立っている「地盤」が生死を左右したのだ。
 その格差は震災を生き延びた人たちをも襲う。豊かな人たちは一時避難所からマンションやホテルへと移っていった。崩れた家の再建も早かった。しかし、その力を持たない者の中には、長期の不自由な避難所生活を余儀なくされ、持病の悪化や肺炎などを患って亡くなった者も少なくない。仮設住宅や高層の復興住宅に移った後も、住み慣れた土地を離れた故に、これまで支えられた人間関係を絶たれてしまい、孤独死も相次いだ。
 長くホームレスの支援活動を続け、貧困の広がりを肌で感じている著者は、この格差社会と震災の因果関係に衝撃を受け、「被災者でもない自分だが、書かずにはいられなかった」のだ。
 震災の悲劇が照らし出すものは、日本で拡大している格差と都市の貧困の問題であり、それは自己責任などではなく、社会的につくり出されたものである―。そんな叫びが行間から聞こえてくる。そして、著者は「格差の実情を直視した災害対策、災害に強い住環境対策の必要性」を強く訴えている。
 震災当時、西宮に住み、住宅に押しつぶされ、無念の死を遂げた人々の累々たる光景を目の当たりにしたわたしは、身を硬くして読み終えた。

 

「神戸新聞」2008年2月17日

耐震性の補強は国の責務と主張
 1995年1月17日の早朝に発生した阪神・淡路大震災。死者の数は6400人を超える大惨事に発展した。著者は取材を通じて、死者の背景にある、格差社会や都市の貧困という社会問題に気付いた。「震災の被害は平等に訪れるわけではない」のだ。
 被害が多かったのは、「文化住宅」と呼ばれる木造二階建てのアパートなど老朽化した建物群だった。家屋の倒壊は古い家の多い地区ほど多く、倒壊による死者が目立った。
 そのような家屋の居住者の多くを占めていたのは、高齢者や生活保護家庭、障害者や外国人労働者など。生活保護家庭の死亡率は一般家庭の約5倍。震災はまさに社会的弱者を直撃した。震災により貧困が目に見える形で提示されたと著者は指摘する。
 同様の被害を繰り返さないためにはどうすればいいのか。耐震性に問題のある建物の補強は国の責務だと著者は主張。安全な生活を守る住宅政策が今こそ求められているとの提言には説得力がある。

 

「東京新聞」2008年3月2日

13年前の阪神・淡路大震災。大地震との遭遇は貧富の区別はないとも思えるが、著者によれば、生活保護世帯の死亡率は平均の5倍。住む地域・住宅など経済力の違いから起こるべくして起こった。ホームレスにいたっては、避難所から追い立てられ、義援金も渡らなかったという。格差が一段と深まった今日、もし大地震が大都市を襲ったら、を考えさせられる本だ。

 

「朝日新聞」(神奈川版)2008年1月18日 評者 岩堀滋

「震災、社会的弱者が犠牲に」
 阪神・淡路大震災から17日で13年。横浜市在住のフリーライターいのうえせつこさん(68)が、大震災の取材から浮かび上がる格差社会の問題などをまとめた「地震は貧困に襲いかかる」(花伝社)を出版した。23日から全国の書店に並ぶが、震災を忘れずに新たな問題提起の意味から発行日は17日付にした。いのうえさんは「神戸だけの問題ではない。地震国日本に住む私たちが、安心して生きていける社会について考えるきっかけになれば」と話す。
 いのうえさんは60年代、夫の勤務の関係で神戸市東灘区の高台に5年間住んでいたことから、知人を介して05年春から大震災の遺族らへの取材を始めた。背景を調べるうちに、高齢者や障害者、生活保護受給者ら「社会的弱者」が多く亡くなり、軟弱地盤で耐震性の低い住宅の倒壊による死者が多かったことに着目したという。
 いのうえさんは仕事の傍らホームレスの支援活動を続けている。「社会的弱者や若者らが震災の犠牲者になったのは、日本の住宅政策や福祉政策の不備によるのではないか」と疑問を投げかける。

 

「朝日新聞」2008年2月24日

 95年の阪神・淡路大震災での死者6434人・行方不明者3人。とは言うが、死者は「病死」ではなく災害による「変死」であり、「検視」など手続きを経なければ葬ることもできなかった。あまりにも多い遺体に、追いつかない対応。結局1カ月かかって34都府県で火葬されたということに驚いて取材を進めたフリーライターは、震災による死とその後が、高齢、生活保護、障害などの弱者に重くのしかかったと検証する。格差と貧困が拡大した今日、またひとたび地震が起きたら……。