2009年4月刊『暴走するネット社会』北島圭

「公明新聞」2009年6月22日 評者 佐々木俊尚

 インターネットでは、これまでの実社会では考えられなかったような驚くべき事態が時々刻々と起きている。出会い系サイトや闇サイトを介した事件。ブログに批判のコメントが集中して手がつけられない状態になる「ブログ炎上」。ファイル共有ソフト「ウィニー」経由で広がるコンピューターウィルスに感染し、機密情報や個人情報が漏洩してしまった事故。さらにはケータイ小説やブログ、プロフ、SNSなどに人々が集まってくるその様相。そしてこうした事態を何とかしようと警察は摘発を繰り返し、青少年ネット規制法などの法律もできた。だがこうした対応はしょせんは対症療法にしかなっていない。
 本書はこうしたさまざまなネットの現実を、実にていねいに取材している。電経新聞という業界紙の記者である著者は、膨大な量の取材を通じ、ネット社会がもたらした実社会への影響力の全体像について、主に心理的な側面から描き出そうとしている。その試みはただちに成功しているとはいいがたいものの、しかしその取材の過程で著書が感じた肌合いを独特の文章で表現することによって、ネット社会に対する何ともいえない軟体動物のような生理的皮膚感覚を描き出すことには成功している。それは快楽と恐怖のまじりあったような、ある種の麻薬的な感覚といえるかもしれない。
 このような皮膚感覚は、ネット社会が進展するに従ってますます拡大し、これからの社会を覆い尽くしていくだろう。ネットが巨大化し、全体像がつかみにくくなっている今、このようにネットを包括的にとらえようとする試みは貴重である。