2012年11月刊『パリの子育て・親育て』林 瑞絵 著

「読売新聞」家庭欄 2013年4月1日

 フリージャーナリストの著者が、フランスでの10年間の子育て体験をつづる。託児所に預けて働いたり、日本語にも慣れさせようと日本の絵本を読み聞かせたり。慣れない環境で奮闘する様子を描く。「乳幼児であっても言葉できちんと説明する」というフランスの育児の考え方は日本でも参考になりそう。

「朝日新聞 DIGITAL」2013年4月8日http://www.asahi.com/and_w/information/TKY201304040175.html?ref=comtop_fbox_u

バラ色じゃないパリの子育て

 小粋なパリの子育てライフを、おしゃれスポットとともにご紹介……する本では全くない。「バラ色の人生も、バラ色の子育てもどこにも存在しない」(「はじめに」から)。現実はしょっぱく、切ない。けれども読後感はさわやかだ。
 パリというアウェーで奮闘する日常から、矜持のようなものが浮かび上がる。
 「ショウガとニンニクの区別もつかなかった」という、いわゆる女子力低めの著者。事実婚で03年に出産後にシングルマザーとなり、愛娘と積み重ねる毎日には、こじゃれた雑貨も有名店のスイーツも登場しないけれど、読み進めるうちに感じる潔さは、原野を貫く一本道のようだ。
 仏人青年ジルとの同棲、予期せぬ妊娠、出産、別居、そして異国で育児に孤軍奮闘する10年間の記録がありのままに記されている。 
 情緒過剰になりがちなテーマでも湿度が低めなのは、著者独特の視点によるところが大きい。
 幼い娘がベッドで大の字で寝ている姿を見て、ふと思う。「なんでこの子は、ここで当然のように安心しきって寝てるんだ?」。
 著者自身も両親が5歳の時に離婚、それぞれ再婚し別々の家庭を築く中で育ったという。「でも、居場所がないとか、さみしいとか不幸だとも思った記憶はないですよ」と話す。が、出産後しばらくは、無防備に甘え、みじんの疑いもなく自分を頼ってくる子どもという圧倒的な存在にたじろいだ。それでも子育てで「親育て」されながら、次第に3人は家族を形作っていく。けれども娘が4歳になるころ、パートナーとの別れはやってくる。その理由、その後の付き合い方は、いかにもフランス流。ここはぜひ本書にあたってほしい。
 一人での子育てはまさに「がっぷり四つ」だ。「C'est la vie(これが人生、しょうがない)」タイプだったはずの著者。それが、日本では普通の添い寝をとがめられて不満をもらし、一時帰国した日本で体験入学させた小学校では、娘の登下校をこっそり尾行。娘をかわいがる元パートナーの新しい彼女には、めらめらと対抗心を燃やす。表現はユーモラスだが、いやおうなくあふれ出る娘への愛に、泣き笑いしながらからめとられていく様子は、じんわりと胸を打つ。 
 本書の柱は出産後9年間にわたって続いた日本語新聞「オヴニー」の連載だが、随所に挟まれたコラムには、子育てや教育事情が取材データとともに示され、現代フランスのルポルタージュとしても興味深い。手厚い家族給付について触れた巻末資料は、先進国トップクラス、2.0を超える合計特殊出生率の背景を知る手がかりとなる。
 ところで、「フランス人は寝る時パンツをはかない」って、本当なのか?

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 「パリの子育て・親育て」/林瑞絵(はやし・みずえ) 1972年、札幌市生まれ。大学卒業後、映画会社2社で宣伝担当をしたのが縁で98年渡仏。在仏日本人向け媒体でライター業を始め、現在は絵尾がジャーナリストに軸足を置き、仏映画の現状を描いて昨年上梓した「フランス映画どこへ行く―ヌーヴェル・バーグから遠く離れて」(花伝社)は、キネマ旬報映画本大賞2011で第7位に選ばれた/花伝社・1400円(税別)