2015年11月刊『地震と火山の基礎知識』島村英紀 著


『長周新聞』2015年12月11日付「本棚」

予知できぬ現実直視を 被災地忘れた都市開発

われわれの祖先は日本列島に住み着いて以来、その自然の恩恵を受けながら、一歩で自身や津波、火山噴火と否応なく向き合っていきてきた。地球物理学者の多くが過去100年の間は、自身や火山活動の「異常なまでの静穏期」であったが、今から「普通の状態」に戻りつつあると考えている。東日本大震災と以後頻発する地震、火山活動は日本人が地震列島、火山列島の上で暮らしていることをあらためて突きつけている。火山や地震について科学的にできる限り正確な理解を持つことは、日本社会の発展と反映を促すうえで不可欠の課題だといえる。
著者は北海道大学地震火山研究センター長、国立極地研究所所長を務め、極地を含めて世界各地で海底の地価構造や自身の調査・解明に携わってきた地球物理学者である。自身と火山研究に関する最新の情報をもとに、地球と人類に関する科学知識を歴史叙述も交えてわかりやすく紹介している。同時に、自身や噴火の予知ができないことなど、今日の地球物理学の歴史的制約からくる限界も明らかにすることで、不断に直面する地震や火山現象について正しい理解を助け、被害の拡大を防ぎたいとの思いをにじませている。
人々の脳裏に焼き付いている最近の出来事として、昨年の御嶽山の噴火がある。爆発としては比較的小規模であったが火山学者の間でも予測できていなかったことから、戦後最大の火山被害をひき起こした。一方、今年八月には鹿児島の桜島で「大噴火の可能性が大きい」として避難措置がとられたが、結局そのような噴火は起きなかった。
比較的観測態勢が整い、系統的にデータを蓄積していた桜島ですら、噴火の予測ができないという現実がある、著者は日本のほとんどの火山が予知できず、このような不意打ちになったり、予想が外れたりすることが避けられないという今日の科学の限界を直視するよう促している。
本書では、「大地震の予備軍」とされる日本海溝の海山の発見、アメリカのシェールガスやオイルの開発による人為的地震、さらには地下水が誘発する地震など、最近のさまざまな自然現象や事件、エピソードを交えて、自然と格闘する科学者の危惧を率直に提出している。
たとえば、地震波のなかでも、地球の表面だけを伝わる「長周期表面波」の危険についても、建築規制の撤廃のもとで、超高層ビルが建設されてきたこととかかわって警告を発している。この表面波は新潟県中越地震(〇四年)のとき、二五〇キロ離れた東京・港区の五四階建てのエレベーターのメインワイヤーが切れるなど、高層ビルを大きく揺るがした原因となった。
その後、長野県西部地震では、新宿の超高層ビルの最上階で地階の二〇倍以上の揺れが長く続いた。東日本大震災では、震源から八〇〇キロ離れた大阪府咲洲庁舎(五五階建て)で天井が落ちるなど三六〇個所が損傷、エレベーター四基に五人が五時間以上閉じ込められる事態が発生していた。想定される南海トラフ地震では東京高層ビルの上部は五メートルも揺れるという科学者の研究もある。
著者は超高層ビルだけでなく、「巨大な石油タンク、長大な橋、新幹線の土木構造物など、振動の固有周期が長い構造物」はおしなべて強い長周期表面波を受けたことがないこと、しかもビル設計時にゼネコンや工学者が地震波を予測しないまま設置していたことに、注意を喚起している。さらに、東京など想定される都市直下型地震と関連して、超高層ビルが関東大震災や東京大空襲で多数の人名を奪った「火災旋風」を助長する可能性を指摘している、
また、戦時下の東南海地震と報道管制、米軍空襲による戦災のうえに被害を甚大にした福井地震、東北をはじめ被災地が抱える復興後の課題、火山と観光産業など自然災害と社会政策との関係についての記述も示唆的である。甚大な被害を出したハイチ地震(二〇一〇年)がすぐ忘れられたが、それは阪神淡路大震災など日本の巨大地震と被災地が忘れられてきたことと共通する問題である。著者はさらに、東日本大震災が「オリンピックの狂想曲」にまぎれて忘れ去られていこうとしていることへの強い懸念を示している。