2016年4月刊『小説 司法修習生それぞれの人生』霧山 昴著

『自由法曹団通信』2016年6月1日(1562)号  評者 東京支部 原和良

一 ゴールデンウィーク前、事務所に一冊の本が送られてきた。福岡弁護士会の有名人霧山昴弁護士(ペンネーム)から謹呈いただいた「小説 司法修習生 それぞれの人生」(花伝社)という本だ。霧山弁護士には、福岡弁護士会のホームページで、拙者二冊について頼みもしないのに書評を書いていただき、親しくさせていただいている。謹呈いただいた以上、どんなにつまらなくとも早く読んで感想を送られねばならない。
わざわざ、「小説」と書いている以上、小説なのだろう。でも、司法修習生というあまりにもストレートなタイトルでは、売れないのではなかろうかと余計な心配をしてしまう。
二 カフェのオープンデッキで、コーヒーを飲みながらページをめくり、プロローグから読み始めた。何と、喫茶店での修習生どうしの和解男女の別れ話から始まるではないか、さすが霧山弁護士。ただものではない。もしかしたら、これは本当に小説かもしれない。何がこれから起きるのだろう?と興味を惹かれ、物語に吸い込まれていった。
三 この物語は、1973年4月、司法修習所に入所した26期修習Bクラスの前期修習の若者たちの人間模様を綴った小説である。
小説家の文章は、法律家の文章とは違い、説明してはいけないのが鉄則と言われている。言いたいことは説明してはいけない。情景の描写や登場人物の言葉を通じて語らせる。なかなか難しいことだが、これをやってのける霧山弁護士は、やはりすごい。本当に弁護士なのか。
四 良くも悪くも、人はその時代の影響を否応なく受けながら時には時代に翻弄されながら生きていくし生きていかざるを得ない。時に司法反動が吹き荒れていた時代。それぞれの夢を抱いて研修所に入所した修習生たちの人生の葛藤を、どの立場にも偏ることなく、淡々と描写していくその手法はいつの間にか47期8組の自分が、26期B組に編入して教室に座っているかのような気持ちにさせてくれる。私たちの期は、湯島で前期修習をした最後の期であるが、その共通体験がそうさせてくれるのかもしれない。
五 霧山弁護士は、弁護士になって42年目、私は21年目。新人の弁護士と霧山弁護士のちょうど中間地点に私はいる。司法改革の中で、修習生活も修習生も私は大きく変わったとつくづく思う。それをとやかくいうつもりはない。一年修習で弁護士になった和解弁護士が、もし旧司法試験時代の修習生活を追体験したいということであれば、ぜひこの本をお薦めしたい。何で、あの先輩弁護士はあんなにパワフルなのか?何であんなに頑固で頭が固いのか、その秘密の鍵を見つけることができるかもしれない。
六 小説では、青法協メンバーの言葉、裁判官共感の言葉、勉強会で行使を務める青法協の先輩弁護士、青法協裁判官の言葉を通して、青法協が語られる。みんな今も現役で頑張っている先輩法曹であり親近感を感じる。数年前体感された23期のM元裁判官の言葉も胸にささる(同じ話を体感直後に青法協の福岡常任委員会で聞く機会があった)。
青法協結成準備会での先輩弁護士が語る言葉〜「弁護士は自由業といっても法律事務所を構えなければなりません。集団事務所といっても一人ひとりに生活がかかっています。だから、弁護士は一人あたり少なくとも25万円の売上を毎月、確保しなければなりません。民主的運動に関わるとしても、商売としての弁護士もやらなければならないのです。そのためには、コネクション、人間関係を絶えずつくっておく必要があります。…青法協というところは、どのような法律家になっていくのかについて意識的に考える人たちの集合体、団体なのです。」これは、創造するにO弁護士の言葉であろうか?今も社会は弁護士に共通する難しい課題である。
本書はあらゆる意味で、司法の歴史を知りこれからの司法を考える生きた教材であり、特に若い弁護士のみなさんには一読を勧めたい。

『週刊法律新聞』2016年5月27日付(第2114号)

お待たせしました。著者が1年がかりで書きすすめていた司法修習生(26期)の前期修習生活がついに本となりました。
 いまの最高裁長官は親子二代、はじめて長官をつとめていますが、司法修習26期生です。その26期修習生です。その26期修習生の湯島にあった司法研修所での4ヶ月が日記のようにして話が展開していきます。
 全国の学園闘争(紛争)を経てきていますので修習生を迎えた司法研修所はかなり緊張して身構えていた気配です。それでも、その前年の「荒れる終了式」とは違って、平穏裡にスタートします。前年に「荒れた」というのは、まったくの嘘でした。司法研修所は、当日、異例なことにわざわざテレビカメラを導入するなど、謀略的です。
 司法研修所では要件事実教育がなされます。白表紙というテキストによって、民事では準備書面や判決文、刑事では弁論要旨、論告そして判決文などを修習生が起案していきます。それを5人の教官が講評するのですが、その講評がシビアなのです。
 青法協会員裁判官の再任が拒否され、24期では裁判官への新任を希望したのに拒否された7人のうち6人が青法協会員でした。青法協に入っていたら、そんな不利益を受けるのです
 司法研修所の教官は任官や任検を必死で勧誘します。そして、青法協には入るなと、口を酸っぱくしてクギを刺すのです。したがって、青法協会員は、そう簡単なことでは増やすことが出来ません。任官希望者は、例外的な修習生をのぞいて、青法協には近寄ろうともしませんでした。それでも、会員のまま裁判官になり、裁判所で冷遇されていた人もいます。
 前期の終わりころに青法協の結成総会を迎えます。25期よりも少しだけ会員が増えるのが期待されていましたが、なかなか伸びませんでした。それでもなんとか、期待にこたえて少しだけ増勢となりました。
 堂々440ページもある大部な本ですが、厚さの割には1800円(税は別)という安さなのです。ぜひとも買ってお読みください。そして友人にも教えてやってくださいな。売れないと、困ってしまう人が出るのです。なにとぞよろしくお願いいたします。